Story世界観
――『魔鉄』。
それが世界に顕れるようになったのは、はたしていつ頃からだっただろうか。
鉄によく似た外見や科学的組成を持つものの、物理の手では加工の出来ない不可思議な物体。
人類にとっては無用の長物とされた、物質界の悪魔。我々が生きている世界よりも高位に位置する世界からやって来た魔法の金属。
その真の力、役割を世に知らしめたのは、当時ボアズキョイと呼ばれていた地に姿を見せた、一人の青年であった。
名を、ラバルナという。
ヒッタイト語で皇帝を意味するその人物は、その瞳に上位世界の風景を映す『OI体質者』と肉体の成長と引き換えに上位世界とこの世界を繋ぐ巫女・魔女とが契約し、鋼の魔術『鉄脈術』を扱う異能者・製鉄師を生み出す方法論を開発。自らもまた皇妃と契約を交わし、複数の連邦・連合をまとめ上げる連結システム『超国家』の構想の下、仲間を率いて瞬く間に世界を支配下に置いた。
これこそが、空前絶後の世界統一超国家・ラバルナ帝国の誕生である。
……しかし、50年にわたり続いた帝国の支配は、唐突に終わりを告げる。
西暦2100年、ラバルナ自身が帝都ハットゥシャで起きた原因不明の炎上事件によって死去。
要石を失った帝国はあえなく崩壊。国々は平和と結束を置き去りに、さらなる繁栄と栄華の継承を求めて争い出した。
ブラッド・カタストロフと呼ばれるこの混乱期に、帝国の独占していた魔鉄加工技術と製鉄師を生み出す方法は全世界に拡散。石器時代、青銅器時代、鉄器時代に次ぐ最新のフェーズ・魔鉄器時代が到来し、新たなる暦として魔鉄暦が敷かれることとなる。
――それから、35年。
ユーラシア西部を支配するヴァンゼクス超国家連邦。
暗黒大陸とそれに接続するオリエントを統べるアクエンアテン神王国。
西欧の地と経済界を牛耳るライオニア商業国。
……他、多数。
世界は「力を持った超国家たちが支配する緩くもはっきりとした結束」と「それに属さぬ勢力たち」という構図へ二分され、今もなお小競り合いとにらみ合いを続けている中、極東に一人取り残された小さな島国があった。
日本皇国。
かつてラバルナ帝国本国と友誼を交わし、されど魔鉄暦30年にあってはただの弱小国家として誰もがその関心の外に位置づけていた、そんな国。
そこが、世界の在り方を決する極点とも知らずに――。
――鋼の時代に覇を唱えろ。その鉄脈を解き放て。
これは、永遠の少女とここではない世界を視る者たちが紡ぐ、ヒトの可能性の物語。